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東京家庭裁判所 昭和56年(少)9214号 決定 1981年8月20日

少年 S・Z(昭四一・四・一五生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、東京都葛飾区立○○中学校三年生に在籍して、授業妨害、器物損壊、教師や他生徒に対する暴力行為を常習とするいわゆる突張りグループのリーダー格の者であるが、

同グループ員のAが対マンと称する一対一の喧嘩を同校三年生H(当一五年)と行つたことに対し、自己グループの威力を誇示しようと考え、同グループ員のB、C、A、D、E、F、Gらと共謀のうえ、昭和五六年七月一五日午後零時三〇分ころ、同区○○×丁目××番×号同区立○○中学校の下駄箱付近において、下校中のHに対し、少年が手拳で一回同人の顔面を殴りつけ、Cが靴ばきのまま同人の背部を足蹴りにし、Aが同人に体当りするなどの暴行を加え、さらに同人がすきをみて逃げ出すやこれを追跡して同校裏門前路地で同人を取り囲み、同人に対して少年が「なんで逃げるんだ」と怒号しながら同人の顔面に一回頭突きを加え、あるいは同人の腹部や胸部などを足蹴りにし、またC、Bが、こもごも同人の顔面、背部などを靴ばきのまま足蹴りにするなどの暴行を加え、同人の頭部、顔面、胸部挫傷、口唇挫創(同日入院、挫創は縫合を行つた。同日一六日退院)及び修復に約一六万円を要する歯牙破折の傷害を負わせ

二 少年が中学校二年生当時、「同級生にゆすりをかけただろう。」などと注意指導した同校教諭K・U(当二五年)に対し反感を抱き、同教諭に対し、「俺は何もやつていない。」などと因縁をつけ、昭和五六年四月一四日午後零時四〇分ころ、同教諭が授業中の同校校舎三年四組教室内に無断で入り、同教諭に対し、「俺は白い目で見られている。親にも文句を言われている。」などと怒号しながら、手拳で同教諭の顔面を五、六回殴りつけ、あるいは同教諭の両足を足蹴りにするなどの暴行を加え、同教諭に全治約一〇日間を要する左額骨部、同下腹部、同大腿骨中央部打撲兼下口唇内出血の傷害を負わせ

三 A、Eと共謀のうえ、昭和五六年五月一二日午後一時四〇分ころ、同中学校三年一組教室内及び同廊下において、授業中の行動を注意されたことに激昂し、同教室で理科の授業を担当していた教諭A・N(当二七年)に対し、こもごも「このごろ調子に乗つているじやねえか。最近のお前は生意気だぞ。」などと怒号しながら、Eは黒板拭きで同教諭の顔面を数回殴りつけ、あるいは給食時のパン屑を床から拾い上げて口中に押し込め、さらに手拳で同人の左腕を数回殴りつけ、またAは小太鼓用の木バチで同人の足を数回殴りつけ、もつて共同して暴行を加え

四 F、G、E、I、Dと共謀のうえ、同月二五日午後二時一五分ころ、同中学校北側裏門付近において、授業時間中に無断で抜け出し、同区立○△中学校の女生徒らとお喋りしていたのを同校教諭R・B(当二三年)らが注意指導したのに憤激して同教諭を取り囲み、少年は同教諭の腹部、背部を数回スリツパばきのまま足蹴りにし、Fは同教諭のワイシヤツを引き裂き、あるいはメガネをはずして破損し、さらに同教諭の陰部を数回足蹴りにし、Gは路上に落ちた同教諭のメガネのレンズを足で踏みつけて損壊し、もつて共同して器物毀棄及び暴行を加え

五 C、Jと共謀のうえ、同月二六日午後八時三〇分ころから同日午後九時三〇分ころまでの間、同中学校裏門付近及び同区○○×丁目××番××号先駐車場において、江戸川区立△△中学校三年生K(当一四年)、L(当一四年)が「先生に告げ口をした」と言つて因縁をつけ、「舎弟になれ」などと言いながら、こもごも同人らの顔面を手拳で数回ずつ殴りつけ、あるいは同人らの腹部、背部を足蹴りにし、もつて共同して暴行を加え

六 同月二八日午後一時ころ、同中学校四階三年一組前廊下において、同校教諭H・K(当四三年)から他のクラスの教室や廊下で焼そばを食べたことを注意されたのに激昂し、いきなり同教諭の左大腿部を三回位足蹴りにするなどの暴行を加え

たものである。

(法令の適用)

第一の事実 刑法二〇四条、六〇条

第二の事実 刑法二〇四条

第三、第五の事実 各暴力行為等処罰ニ関スル法律一条(刑法二〇八条)、刑法六〇条

第四の事実 暴力行為等処罰ニ関スル法律一条(刑法二〇八条、二六一条)、刑法六〇条

第六の事実 刑法二〇八条

(処遇の理由)

一  少年は、葛飾区立○○中学校のいわゆる突張りグループのリーダー格であるが、自己グループの威力を誇示するために、前記犯罪行為を累行したほか、昭和五六年四月一三日には、音楽室、準備室のガラスを割り、鍵をあけ、バチをとり室内を乱したのを皮切りに、同月二一日には廊下で爆竹を鳴らし、あるいは廊下の壁を毀し、さらにガラスを次々と蹴飛ばして割つた。また同月二三日には、授業中教師目がけて廊下からガラスの破片を投げつけ、あるいは戸袋の戸をはずして廊下側上窓から投げ入れた。さらに同年五月六日には、職員室に押し入り放送機をいたずらして授業中放送し、また同月一一日にはライターで掲示物を燃やすなど暴行、器物毀棄、授業妨害などを繰り返して来た。このように学校教育の現場で教師と先生とのけじめもなく、暴行行為が堂々と敢行されることは、他生徒への影響が極めて大きく、その弊害は甚大であるといわなければならない。

二  少年は、小学校時代には格別、問題行動はなかつたが、中学一年生ころからいわゆる万引、喫煙、校則違反、恐喝などの非行が目立つようになり、その都度、警察や教師に注意、補導されたにもかかわらず、素行は一向におさまらず、中学三年生になつてからは、前記のとおりいわゆる校内暴力行為を拡大して行つた。

三  少年の資質をみると、知能指数は九九で普通であるが、思考は浅薄で熟慮するところがなく、目先の楽しさにひかれて軽率に行動してしまう。また自主性に乏しく、他人から誘われると無批判に追従してしまう。さらに自己顕示性も強く、自分を強く見せようと背伸びをしている。本件犯行も少年のこのような性格に由来するところが大きいと認められる。

四  他方、少年の父親は、夫婦の折合が悪く、別居しており、少年の指導監督ができず、また、母親は、クリーニング業を一手に引き受けて忙しく、感情的に叱責するだけで基本的な躾を怠り放任している。

五  以上の事実に本件犯行の態様、回数などを合わせ考えると、少年に対しては、この際初等少年院に収容して、規則正しい生活の中で、社会的な躾と内省力を身につけさせるとともに、力志向的なものの見方を改善することが必要かつ相当である。

なお、少年は中学生であること、保護処分歴がないことなどを考慮して、少年を一般短期処遇に付したうえ、できる限り早い時期(処遇期間約三か月)に仮退院させるとともに、在籍中学校との連係を密にして、円滑に学業へ復帰できるように配慮することが相当である。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 内園盛久)

昭和56年少第11279 8245 9214 9219 号

表<省略>

〔参照〕 抗告審(東京高 昭五六(く)二〇六号 昭五六・九・一一決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人○○○○が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

論旨は、要するに、少年は本件により少年鑑別所に収容されたことによつて自己の非を悟り反省の情を示していること、少年の両親も従前の放任的態度等を改め少年を十分指導監督する旨誓約していること、少年が在学している○○中学校も少年を受け入れて指導を強化する方針であること、他の共犯者との処分の権衡等の諸事情に照らすと、少年を初等少年院送致とした原決定の処分は著しく不当である、というのである。

しかしながら、記録により調査検討すると、少年は、小学生時は格別問題行動がなかつたものの、中学一年時に勉学に興味を失つて遊びを覚え万引の非行に陥り、次第に学力も低下して二年時の後半からは生活態度にも落着きを欠き何事にも投げやりで喫煙、盗品のオートバイを乗り廻すなどの行動に及んでクラスから次第に浮き上り、同様な傾向の同級生らといわゆる突張りグループを結成してそのリーダー格となり、教師の指導を素直に受け容れずかえつて反抗や逆恨みをしたり、自分達を白眼視して差別しているとの不満を抱き、三年生になつた昭和五六年四月から七月にかけて在学中の○○中学校等において同校教諭、生徒、他の中学校の生徒らに対し単独又は前記突張グループの者らと共同して次々と傷害二回(なお、原決定の罪となるべき事実二二行目に「K・U」とあるのは「K・S」の誤記と認める。)、暴力行為等処罰に関する法律違反三回、暴行一回の非行に及んだものであつて、少年は、右以外にも原決定処遇理由一記載の学校内での器物損壊等の非行を常習的に繰返し、しかもこの間学校からしばしば注意を受けたうえ一週間余りの家庭学習を命ぜられ、また警察官の取調べを受ける等反省の機会が数多くあつたのに何ら自省することなく、いわゆる校内暴力を一段と増大させていつたのであり、これらの非行は、少年が社会的規範を遵守しようとする意識に乏しく、自己を深く洞察する能力に欠け、承認欲求と自己顕示欲が強く附和雷同的な性格に由来するものであり、一方、父親は家業のクリーニング店のほかにもスナツクを経営して別居しており、母親は家業に追われていずれも十分な監督能力に欠け、金銭万能主義的で小遣は十分与えるものの一般的な躾など精神的な面での教育を怠つて放任し、時に母親や兄に対する少年の家庭内暴力すら生ずる状態にあつて、少年の家庭の保護能力にも不十分な点があり、また○○中学校において現在非行対策が真剣に検討されつつあるとはいえ、従来若くて教育経験の短い教師が多く少年らの非行に適切に対処しえなかつた憾みがあり、前記突張りグループがいずれも同校生であることからすると、この際は学校側の右対策の具体化のためにも少年と右グループとの関係を絶つて冷却期間を置く必要もあることなどの事情が認められ、以上によれば、少年についてはもはや在宅による指導では足りず、施設に収容して一般短期の処遇を通じて自己規制力、規範意識を強め、暴力志向を改めさせ、社会性を養うことが相当であるというべきであるから、少年にはこれまで保護処分歴がなく、一部の被害者との間では示談が成立して被害の回復が図られていること、その他所論のいう少年の反省の情のほか、前記グループ内での立場、性格傾向、家庭環境に差異の見られる他の共犯者の処分との対比、権衡等の事情を十分酌んでも、処遇方法や収容期間等について前同旨の処遇意見をも付した原決定の処分が著しく不当であるとはいえない。

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

〔参考一〕少年調査票<省略>

〔参考二〕鑑別結果通知書<省略>

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